吉野の昔話
〜語り継がれる人々の想い〜

長尾のりゅうた

中竜門と龍門のちょうど境に小嶋峠と呼ばれる所があってなぁ、この峠にいたずら好きのひねた狐がようあらわれてんてぇ。

この狐、中竜門一帯ではなぁ「長尾のりゅうた」って呼ばれててんて。
昔は龍門郷やったから「りゅうた」そして、りゅうたは普通の狐より尾っぽが長かったから「長尾」で、「長尾のりゅうた」って呼ばれててんて。
でな、りゅうたの長い尾っぽには不思議な力があって、尾っぽを振った方に人が飛んで行ってしまうんや。このりゅうたが現れるのは、逢魔ヶ時。

逢魔ヶ時ってなぁ、お日さんが沈んで、あたりが暗ぁくなって、木が人影にみえたり、魔物や妖怪が動き出す頃を言うねんでぇ。

ある逢魔ヶ時の事。りゅうたがいつものように小嶋峠のてっぺんにある木のかげにひそんでいるとな、畑仕事帰りの村人が通りかかった。
りゅうたは長い尾っぽをぴぃんと立てて、ひょいっと大きく右に振った。すると村人は右の方にひゅうんと飛んで畦を踏まされてどろどろになってしまった。村人は「りゅうたにやられた!」とかんかんになって家に帰ってんてぇ。

そうそう、りゅうたのいたずら話は聞いたことあるけど、死んでしもたと言う話はどこにもない。
もしかしたら、逢魔ヶ時にひょこっと現れるかも知れへんから、暗くなるまで外で遊んでやんと、早よ帰りやぁ。