吉野の昔話
〜語り継がれる人々の想い〜

三杯

中竜門の柳と三茶屋のちょうど境に、三杯と呼ばれる所があってな…

むかぁしむかし、その土地に、親孝行で働き者の息子がいました。
暮らしは貧しく、そのうえお父さんは大酒飲み。それでも孝行息子は、毎日真面目に働いていました。

ある夜の事…孝行息子が寝ていると、夢の中に神さんが現れて、こうおっしゃった。
「働き者の孝行息子よ、ほうびに良いことを教えてあげましょう。この山の奥に滝がある。その滝の所を掘りなさい。すると地中から酒が湧いてくる。その酒を一日二杯限り酌んでよい。良いですか、二杯限りですよ」
そう言い残すと消えてしまわれた。

朝、目がさめた孝行息子は、神さんのおつげの通り山に行き、滝のそばを堀り始めました。
すると…本当に酒が湧いてくるではありませんか。
「ありがたやぁ、ありがたやぁ」
その日から孝行息子は、毎日毎日お父さんのために、酒を二杯酌んでは家に持ち帰りました。

ところが、ある日のこと。
この孝行息子、つい魔が差して…
「この酒うまそうやなぁ。のみたいなぁ…誰も見てへんし、ひとくちくらいなら大丈夫やろう」
そう言うと、三杯目を酌んで飲んでしまいました。

それからというもの、もう二度とお酒が湧いてくる事はありませんでした。

それでこの土地に「三杯」という地名がついたんやて。